腕時計の読みもの

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ダーティダース 12本のイギリス軍用時計を徹底解説

Dirty Dozen(ダーティダース)

出典: Watches of Knightbridge

Dirty Dozen(ダーティダース)という軍用時計を聞いたことがありますか?

第二次世界大戦でイギリス軍(英国陸軍)が実戦で使用した12のメーカーの時計の総称を指します。

今回はそのダーティダースを解説していきます。

ダーティダースが生まれたきっかけとは 

ダーティダースは、イギリス国防省(MoD)から依頼を受けた12のメーカーが生産した軍用時計(ミリタリーウォッチ)です。

それぞれの時計を個別に見てもそれほど評価の高い軍用時計であるとは言えないかもしれませんが、中にはこれらの時計を蒐集するコレクターたちもいます。

1939年にイギリスがドイツへ宣戦布告をした当時、いくつかの現地の時計メーカーはスイスと同等の生産能力がありました。ですがそれらのメーカーは、イギリス空軍や海軍のために軍用品の供給を依頼されていました。

スイスは、連合国とドイツにそれぞれ大量の腕時計や懐中時計を輸出していましたが、これらは戦前の民間市場による発注でした。イギリス国防省はこういった民間発注の商品は、イギリス軍のニーズを満たさないと考えたため、独自のスペックを設定し各メーカーに依頼しました。

ダーティダースの12メーカーとは

ダーティダースと呼ばれる軍用時計の生産を依頼された12のメーカーは、それぞれBuren(ビューレン)、Cyma(シーマ)、Eterna(エテルナ)、Grana(グラナ)、Jaeger-LeCoultre(ジャガー・ルクルト)、Lemania(レマニア)、Longines(ロンジン)、IWC、Omega(オメガ)、Record(レコード)、Timor(ティモール)そしてVertex(バーテックス)です。

ジャガー・ルクルト、ロンジンやIWCそしてオメガなど現在でもよく知られているメーカーから時計好きでないと知らないようなメーカーまで様々です。

イギリス軍がダーティダースに要求したスペックとは

イギリス軍が発注した軍用時計ダーティダース

出典: Watches of Knightbridge

ダーティダースに求められたスペックは、以下のとおりです。

  • ステンレススチールケース(一部はクロムの物がある)
  • 黒文字盤
  • アラビア数字インデックス(夜光)
  • 時分針(夜光)
  • スモールセコンド
  • 飛散防止の風防
  • 15石の高精度ムーブメント
  • 防水性能

写真を見ても分かる通り、イギリス軍による明確な指定があったため各社のロゴそして針の形状など一部をのぞいてそのほとんどが同様の時計であることがよく分かります。

ダーティダースの生産本数

各メーカーは、彼らの生産力が許す限り生産し納品しました。公式な数値はありませんが、Konrad Knirim著のBritish Military Timepiecesの560ページに調査データが掲載されているので引用します。

ダーティダース各メーカーの生産本数
メーカー コード 生産本数 情報元
Buren H 11,000 推定
Cyma P 20,000 推定
Eterna P 5,000 推定
Grana M 1,000〜1,500 推定
IWC M 6,000 IWC アーカイブ
JLC F 10,000 JLC アーカイブ
Lemania Q 8,000 推定
Longines F 5,000 推定
Omega Y 25,000 オメガ アーカイブ
Rocord L 25,000 推定
Timor K 13,000 推定
Vertex A 15,000 推定

引用: Konrad Knirim著 British Military Timepieces: Uhren der britischen Streitkraefte / 560ページ

表からも分かる通り各社の生産数は異なります。

25,000本の納品があるメーカーもあれば、少ないメーカーだと1,000本程度です。

また、IWC、ジャガー・ルクルトそしてオメガの3メーカーだけが注文数の厳密な記録を残していました。

1945年までにあわせて約15万本の時計がイギリスに輸出され、使用されました。

ダーティダースのW.W.W.とブロードアローの刻印

ダーティダースのケースバック
ダーティダースの裏蓋の内側

出典: A Collected Man

ダーティダースの時計にはいくつかそれと見分けるための特徴があります。

先に上げたスペックを満たしていることという点もそうですが、その他にもW.W.W.とブロードアローの2つの刻印が挙げられます。

W.W.W.

まずひとつめは、W.W.W.の刻印です。W.W.W.は、Watch、Wrist、Waterproof、つまり防水性の腕時計であることを表しています。

上の写真のように大抵ケースバックにエングレーブされています。

ブロードアロー

左からブロードアローと簡略版のブロードアロー

もうひとつは、ブロードアローです。

ブロードアローは、イギリスの官有物であることを示す矢印形のマークのことを言います。上部写真の左のものがブロードアローです。元々は矢の高さなど規定があったそうですが、写真右のような簡略版も存在します。

そして、ダーティダースにはこの簡略版のブロードアローが文字盤、ケースバックそして裏蓋の中に刻印されています。

軍用品であったということを知らせるだけでなく現在ではダーティダースであることを見分けるひとつの印になっています。

※ブロードアロー左の図はWikipediaより

 

まとめ

ロンジンのダーティダース

出典: A Collected Man

ダーティダースをご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。

世界中でミリタリーウォッチを蒐集するコレクターがおり、ダーティダースをその対象とするコレクターも数多くいます。ですが、おそらく12本全てをしかもよい状態でコンプリートしている人は少ないだろうと思われます。

それは、数千しか生産しなかったメーカーがいることや夜光にラジウムが使われた個体があり時計そのものが腐食されてしまっているからです。

ダーティダースを全て集めることはそう容易なことではないかもしれませんが、歴史的なバックストーリーや見た目のカッコよさに惹かれた方は挑戦してみてはいかがでしょうか。