出典: NY Times
時計のデザインは様々なものによって構成されています。時計メーカーは、可能な限り細部に注意を払いますが文字盤のフォントまでは及ばない場合もあります。
一般的な書体が使われていたり、文字盤のスペースを正しく埋められていないものや誤った配置のされたフォントである場合などがあります。
「悪魔は細部に宿る」と言いますが、そうした些細な部分で時計の美しさを壊してしまうこともあるのです。
今回は、3つの時計ブランドとそのブランドで使われているフォントをご紹介します。
エルメス
数年前、エルメスはフランス人グラフィックデザイナーのPhilippe Apeloig(フィリップ・アペロワ)に次作であるSlim d’Hermès(スリム ドゥ エルメス)のための全く新しい書体の制作を依頼します。
アペロワがデザインしたフォントは、これまで時計業界が見たことのない独特なものとなりました。
アペロワは、数字をデザインする際に使用できる円、三角形、曲線、そしてダッシュに制限、制約を設けたそうです。
滑らかでミニマルなフォントですが、文字を2等分することで生まれるある種の不完全さを持ち合わせているのが印象的です。
この若干の不完全さが結果として目を引き、文字盤上で視認性をあげることにつながっています。
ノモス グラスヒュッテ
ノモスは1990年の設立以来、20世紀初頭のバウハウスやその前身であるドイツ工作連盟のデザイン原則を貫き続けてきました。
バウハウスのデザイン原則は、一切の無駄を省き実用性を重視するということです。結果としてその機能美から洗練されたデザインが生まれています。
この原則は当然のことながらノモスの時計に使用されるフォントにも及んでいます。おそらくブランドにとって最も象徴的なモデルは1930年代のドイツの時計にインスパイアされたタンジェントというモデルでしょう。
タンジェントの書体は、直線的で長い線が用いられたアラビア数字が特徴的です。
A.ランゲ&ゾーネ
A.ランゲ&ゾーネは、アドルフ・ランゲによって1845年に設立されたドイツの高級時計ブランドです。一度はブランドが消滅したもののアドルフ・ランゲの曾孫にあたるウォルター・ランゲによって消滅から約50年後に復活しました。
そのためランゲの時計作りへのアプローチは、過去と現代の両方を兼ね備えています。
当然のことながらランゲのフォントにもそのアプローチがなされています。
ドイツの彫刻師Robert Wiebkingによって1900年ごろにデザインされたすべて大文字のフォント「Engravers」にインスパイアされた特注のフォントです。
ランゲは、クロノグラフや永久カレンダーといった複雑時計で知られており、文字盤全体に書体を配置する際に綿密に計算されています。
時計製造の際に文字盤上にどのように文字を並べるべきか、そしてそれがムーブメントにどのような影響を及ぼすのかを時計デザイナーとムーブメントの設計者によって話し合われます。
最初の草案が最終的な文字盤構成に近い場合もあるそうですが、デザイナーが納得のいくまで何度も詳細を変更しているそうです。
いくつものアイディアを競わせることによってより良いものを作り出しているのだと言います。
※本記事は、GearPatrolのTime & Type: How Font Choice Can Shape a Watch Dialを参考に執筆しました。
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