腕時計の読みもの

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時計のローマ数字の「4」はなぜ「IIII」が「IV」の代わりに使われるのか

clock at station

ローマ数字は、時計のデザインで使われる最も古典的な数字の一つです。時計の歴史を振り返っても掛け時計、置き時計や懐中時計そして腕時計にもローマ数字が使われています。ですが、ローマ数字の文字盤の時計をお持ちの方であればちょっと変わった奇妙な点に気づくと思います。一般的にローマ数字では、数字の「4」を「IV」と書くのが通常ですが、時計では、「IIII」と書かれているのをしばしば目にします。これについては、たった一つの答えがあるわけではないのですが、今回は諸説ある中のいくつかをご紹介します。

ローマ数字の表記法

事前にローマ数字のおさらいです。もうすでに知っているよ分かるよという方は飛ばしてしまって構いません。

ローマ数字(ローマすうじ)は、数を表す記号の一種である。ラテン文字の一部を用い、例えばアラビア数字における 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10 をそれぞれ Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅵ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅸ,Ⅹのように並べて表現する。I, V, X, L, C, D, M はそれぞれ 1, 5, 10, 50, 100, 500, 1000 を表す。i, v, x などと小文字で書くこともある。

引用: ローマ数字 - Wikipedia

 ローマ数字は、基本的に以下の数字とその組み合わせで成り立っています。

アラビア数字 1 5 10 50 100 500 1000
ローマ数字 I V X L C D M

基本となる数字の右側に加算する数字を書き、左側に書けば逆に減算される仕組みです。そして同じ数字を繰り返す時は3つまで。これは、加算・減算する数字の繰り返しを少なくするためです。

例えば、「9」と「11」を例にとってみると...

「9」
9 = -1 + 10
9 = I + X
9 = IX

「11」
11 = 10 + 1
11 = X + I
11 = XI

となります。最初は、とっつきにくい印象のローマ数字ですが、意外とシンプルですよね。

時計の時刻の数字を通常のローマ数字にしたものと時計上のローマ数字を表にまとめてみました。

アラビア数字 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
ローマ数字 I II III IV V VI VII VIII IX X XI XII
時計のローマ数字 I II III IIII V VI VII VIII IX X XI XII

そして今回の記事のテーマとなるのが太字になっている「4」の表記方法についてです。ローマ数字の通常の表記ルールであれば、「IIII」ではなく本来「IV」となるはずですよね。ローマ数字について知っている人からするとやっぱり疑問に思ってしまうポイントです。

時計とローマ数字

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出典: https://monochrome-watches.com/

現在は、ローマ数字はもはや広く使われるものでは無くなっています。殆どの西洋諸国では、アラビア数字が使われ、アジアの国々では漢字をはじめとした様々な数字が有り、アラブ諸国では、伝統的なインド・アラビア数字が用いられています。ですがこと時計の世界となると現在でもローマ数字は様々な文字盤で使われています。

例えば、アンティークの懐中時計やA.ランゲ&ゾーネ、グラスヒュッテ・オリジナル、カルティエ、ブランパンにロレックスまでもが文字盤の4時位置を示す数字に「IIII」を使用しています。もちろん全ての文字盤が、「IIII」を使っているわけではなく例えばロンドンのウェストミンスター宮殿の時計台ビッグ・ベンは、ローマ数字の減算則に則った表記がされています。

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出典: https://www.telegraph.co.uk/

ですがやはり時計で4をローマ数字で表記する際は、「IIII」が一般的です。 一体何故なのか、いよいよいくつかある説をご紹介していきます。

そもそもローマ数字の4はIIIIと表記していた説

ローマ数字は、約紀元前1000年ごろの古代ローマに起源を持ち、ローマ帝国の衰退のずっと後、中世後期にはヨーロッパで数字の表記方法としてすでに定着していました。ローマ数字がアラビア数字に置き換わったのは14世紀ごろのことで、日本では江戸時代後期の1850年ごろからではないかと言われています。
現在広まっている4の表記は「IV」となりますが、発症当時の表記方法と今の一般的な表記とには違いがあったのではないかと言われています。ローマ数字の初期は、IVの代わりにIIIIを4とし、9をIXの代わりにVIIIIと表記していたのではないかといった形です。実際にはこの表記には問題があり、IIIやVIIIと混乱してしまう可能性があります。そこでローマ数字の表記方法に改善が加わり変わったのではないかと。ただこれはローマ帝国滅亡のずっと後になるのですが...。

最初の機械式時計が作られたのは、13世紀のヨーロッパでローマ数字はまだ使われていました。そして時計の多くは、協会に備え付けられておりラテン語がカトリックの公用言語でした。ほとんどの時計の文字盤がローマ数字で書かれていたというのは辻褄があいます。ただこれだけでは、なぜIIIIがIVの代わりに使われていたのかという説明にはなっていませんね。

ユーピテル神への冒涜を避けた

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出典: https://en.numista.com/

ローマで時計がまだ作れなかった頃、天文学に基づいた日時計が活用されていました。日時計は、太陽の光と影を利用して時刻を計測する装置で、その起源は紀元前1500年ごろの古代バビロニアにまでさかのぼると考えられています。そのためローマでは日時計が多く見つかっており、また持ち運びのできる日時計も存在しました。そして日時計の中には、ローマ数字が彫られていてIVの表記とIIIIの表記が混在しています。
そしてローマ神話に関わりがあるのではないかという説もあります。ローマ神話のユーピテル(ジュピター神)は、主神でありすべての神の王とされています。そのユーピテルのラテン語の古典綴は、IVPPITERとなり、「IV」を使うことが神への冒涜とならないように「IIII」が使われることになったのではないかということです。

教育を受けていない多くの市民たちのため

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今でこそローマ数字の減算則が広く理解され一般的なものとなっていますが、その表記法自体は徐々に浸透していったもので当時の時計師達にとっては、IVを使用するかしないかの選択の余地があったのではないかと考えられています。先述の通り時計は協会に備え付けられているもので街で誰しもが見ることができるものでした。

忘れてはならないのは、古代と中世では、ごく一部の人口だけが読み書き計算ができたということです。「IV」は、減算則を使用しており計算が必要ですが、「IIII」であれば複雑ではなく一般に教育を受けていなかったとされる1650年代のフランスやドイツの農民達にも分かりやすかったのではないかとされています。確かに「IIII」であれば、4つあることが簡単に視覚的に分かります。ただここでも疑問となるのが、「IV」と「VI」や「IX」と「XI」です。いくつかの時計では、9を「VIIII」と表記することがあるためこれもそういった理由からかもしれません。

より効率的な時計製造のため

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もし加算則のみに則ったローマ数字であれば、必要な数字は以下のとおりです。
I, II, III, IIII, V, VI, VII, VIII, VIIII, X, XI, XII
これであれば、より少ない組み合わせで製造することが可能です。
必要になるのは、最初の4つの数字「I」「II」「III」「IIII」と「V」と「X」の合計6つの組み合わせだけです。ただより伝統的な文字盤を見るとI, II, III, IV, V, VI, VII, VIII, IX, X, XI, XIIの組み合わせが多く、そのためこれも有力な説ではありません。

視覚的なデザインバランスのため

カルティエ タンクソロ

最後は、文字盤のデザインバランスのためで無いかという説です。時計は12時間で表記され、そのため12の数字が文字盤に記されています。
最近の時計もヴィンテージの時計もそのほとんどは、加算則と減算則を複合した表記です。4は、「IIII」と表記され、9は「IX」となります。こうすることによって文字盤に表示されるのは以下のローマ数字です。
I, II, III, IIII, V, VI, VII, VIII, IX, X, XI, XII
これは、文字盤を大きく3つの領域に別けることができます。最初の3分の1は「I」のみの構成、次の3分の1は「V」を中心に、そして最後の3分の1は「X」を中心にした構成です。こうすることで時計を3つの領域にバランスよく別けることができ、より整った美しい文字盤を構成することができるのです。また、「IIII」の方が特に上下逆さまになった際に「IV」よりも視覚的に分かりやすいという点も上げられます。

まとめ

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これが絶対的な解だというものはなく、まだ他にも諸説あるようです。ですが、いくつかの説を知ることによって今日の時計産業が現在もほとんどのローマ数字文字盤で「IIII」を改めて理解することができます。