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文字盤下部の"Swiss"、"Swiss Made"の両脇にある妙な丸っこい記号の付いた文字盤をご存知ですか?ヴィンテージウォッチの文字盤でしばしば見られるのですが、上の写真でいう6時位置の「σ T SWISS T σ」表記の「σ」の記号です。
これはシグママークと呼ばれているのですが、今回はそのマークの持つ意味やその起源を解説します。
腕時計の文字盤上のシグママークとは
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文字盤に表記されるこの記号は、ギリシャ文字の小文字の「σ」(シグマ)です。この表記のある文字盤は、「シグマダイアル」や「シグマ文字盤」と呼ばれています。
シグママークは、文字盤に金などの貴金属が使用されていることを示す表記で、1970年代から2000年頃までに生産された時計に見ることができます。
このシグママークは、かつてスイスに存在したl’Association pour la Promotion Industrielle de l'Or (通称APRIOR)というゴールドの時計の製造を行っていた業界団体の会員だけが使用することを許されたマークでした。そのため全てのブランドで見ることはできずはなく、パテック フィリップやロレックス一部のメーカーでのみ採用されていました。
1973年にスイス時計協会FH主導ではじまったこの団体のミッションは明確で、「時計のパーツにゴールドが使われた際にこのマークを付けることでゴールドのスイス製の高品質な時計であることを示す」ということでした。
シグママークは、実は文字盤だけでなくケースやブレスレットにもマークが付けられているものがありました。
このシグママークが推進されていた当時のスイス時計業界は、クオーツショックの煽りを受け機械式時計が時代遅れとなり売上が激減し一方でクオーツムーブメントが広く普及していく時代でした。そのため機械式時計の価値をより強調するために目に見える形で「シグママークの付いた時計は投資価値がある時計だ」ということを打ち出したいという思いもあったのかもしれません。
シグマダイアルの起源
先程APRIORが発足したのは1973年であることを解説しましたが、シグマのシンボルマークは実はそれよりも前の1971年8月に登録出願されていました。1973年以降にシグマダイアルの製造がはじまったと言われていますが、実際の時計をみるとそうではないことが明らかになります。
ロレックスの1970年のシリアルナンバーのモデルで既にシグママークが採用されているものがいくつも存在していることが知られています。上の写真のリネン文字盤のロレックスデイトジャストは、シグママークの着いた1972年の個体です。
これには、どこかの文字盤メーカーが先駆けて試験的に製造していたのではないかという説もあります。
最終的に2007年には団体が消滅しましたが、トレードマークは2003年ごろまでは継続的に更新され続けていました。
ロレックスは1970年〜1975年ごろまでシグママークを採用していたのではないかとされています。
シグママークを採用したブランド
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シグママークを採用していたブランドは、5つから9つ程度と言われています。代表的なブランドは、パテック フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ロレックス、IWCやロンジンです。
パテック フィリップの、ノーチラス、ゴールデンエリプス、IWCのインヂュニア、ヴァシュロン・コンスタンタンの222(スクエアモデル)などがあげられます。
まとめ
シグマダイアルがあったことで1970年代のクオーツショックを乗り越えられたのかといえば答えは明白ですが、当時のスイス時計業界の思惑が見え隠れするマークでもあったことが分かりました。
腕時計は、細かな仕様の違いや表記の違いが大きく注目されることが多いです。特にヴィンテージウォッチを購入する際などは、どんな小さいことでも目がつくものです。オリジナルに近いものやオリジナルのまま文字盤のヤケが美しいものなどが良しとされる傾向にあります。価格を不当に上げるためにリダンといってオリジナルに近い状態に書きなおしたり意図的にダブルネームの時計にされたりすることもあります。シグママークのような些細なことも知識として持っておくと何か役に立つかもしれません。今後も時計の雑学を色々とお届けしたいと思います。