先日「DKSHジャパンがローラン・フェリエの公式取扱いを開始」という記事を公開しました。そのローラン・フェリエからプレスレビューへのご招待を受け、実機に触れる機会をいただきました。
また、それだけでなく時計のムーブメントに使われるパーツの仕上げ体験「ローラン・フェリエ マスタークラス 仕上げ編」にも参加することができました。
今回は、その様子をご紹介します。
ローラン・フェリエの仕上げを学ぶ
早速仕上げの工程の様子をと言いたいところですが、まずは座学でローラン・フェリエの仕上げについて学びます。
今回は、ローラン・フェリエのCEOであるVanessa Monestel(ヴァネッサ・モネステル)氏から直接プレゼンテーションを受けました。
当日は、ブランドの歴史から特有のムーブメントの種類や機構を学びましたが、本記事では仕上げを中心に書いていきます。
腕時計の仕上げには、いくつもの種類があります。ローラン・フェリエの時計には、大きく分けてマット仕上げと光沢仕上げの2種類の仕上げが施されています。
Matt Finishes (マット仕上げ)
- コート・ド・ジュネーブ
- ペルラージュ
- ギョーシェ彫り
- 円サテン仕上げ
Shiny Finishes (光沢仕上げ)
- 鏡面仕上げ
- 面取り
ローラン・フェリエは、これらの仕上げを使い分けることによってムーブメントの立体感と高級感を生み出しています。
ローラン・フェリエ マスタークラス 仕上げ編
今回は、ご紹介した光沢仕上げに分類される鏡面仕上げ「ブラックポリッシュ」を行います。ブラックポリッシュは、磨いた面が光を吸収し黒く見えるからそう呼ばれるそうです。
仕上げするパーツ
今回仕上げを行うのは、ローラン・フェリエのムーブメントに組み込まれる一つのパーツです。上の写真の赤枠部分の縦の直径わずか7mmと非常に小さなとコハゼ呼ばれるパーツです。
英語では8 shaped clickと説明されたのでおそらく日本語では8の字型コハゼといったところでしょうか。
時計にはいくつもの小さなパーツが使われていますが、あらためて実物をみるとここまで小さいのかと驚きました。
仕上げのための道具
そして、作業に使用するのはこちらの道具類です。
- 作業マット
- キズミ
- 亜鉛板
- バフスティック
- 指サック
- 刷毛
- ピンセット
- ベンジン
- ブロワー
- ダイヤモンドパウダー(画像にはありません)
ブラックポリッシュの作業工程
作業工程は非常にシンプルです。
亜鉛板の上にダイヤモンドパウダーを付着させ、さらにその上にコハゼを乗せます。
そしてバフスティックでコハゼを押し付けるようにして擦りつけダイヤモンドパウダーによって研磨していくという要領です。
1. ダイヤモンドパウダーを亜鉛板に付着させる
ローラン・フェリエのCEOのヴァネッサ氏自ら乗せていただきました。
職人の場合はそんなに多く載せないそうなのですが、素人なので少し多めに。
作業工程をヴァネッサ氏に横で教わりました。
2. コハゼを亜鉛板の上に乗せる
ピンセットをうまく使ってコハゼを慎重に亜鉛板の上に乗せます。
普段こんな細かな作業をしないためどうしても手が震えてしまいます。
うまく乗せることができました。
写真から見てもその小ささが分かるのではないでしょうか。汚れのように見えているのがダイヤモンドパウダーで、これに擦ることで金属を研磨していきます。
3. コハゼを磨いていく
亜鉛板の上にパーツを乗せたら早速磨いていきます。
磨き方には2通りあるようで、バフスティックと呼ばれるクッション性の革が張られた木の棒を使用する方法、そして指サックを使う方法です。
自分の好みのやり方で良いとのことでしたが、バフスティックで行うほうがいくらかやりやすいと聞いたので素人の私は迷わずバフスティックで。
左右に擦るよりも上下に擦ったほうが仕上げやすいそうです。
あとはひたすら擦りつけて磨き上げていくだけです。
他にも参加者の方が何人もいたのですが、皆さんしばし無言になり真剣に取り組まれていました。
室内には仕上げを行う際に金属同士が擦れる音だけが響きます。
ショリショリショリショリ...キュッキュッキュッキュ...
4. 汚れてきたらベンジンでクリーニング
ある程度進めていくと段々とダイヤモンドパウダーと金属の汚れが目立ってくるのでベンジンで洗浄します。
コハゼをベンジンにつけて、刷毛を使って汚れを落としていきます。
汚れが取れたらペーパーで拭き取るのですが、ピンセットで抑えながらブロワーで吹き飛ばすことで簡単に汚れを取ることができました。
後は、3と4の工程を何度も繰り返し行っていきます。
5. 仕上がり具合をチェック
良さそうかなというタイミングで顕微鏡で仕上がり具合をチェックします。
やってみては確認しの繰り返しを行い磨き足りない箇所を確認しながら進めていきます。
私の仕上げはうまく出来ているでしょうか。
こちらが私が実際に仕上げたコハゼです。
どうでしょうか。時計師の方とCEOのヴァネッサ氏には、素人にしてはなかなかの出来とお褒めの言葉をいただきました。(やったー!)
それでもやはり磨く際に入れる力を均等に入できていないため磨き足りない部分がどうしても残ってしまいます。やはりなかなか難しいですね。
ちなみにこちらがローラン・フェリエの時計に組み込まれている実際のコハゼです。
パーツの縁の部分まで均等に美しく仕上げられていることが分かります。職人が磨き上げたパーツがいかに美しいかよく分かりました。
実はマニュファクチュールではないローラン・フェリエ
私も最初勘違いしていたのですが、ローラン・フェリエは自社でパーツから全てを制作する所謂マニュファクチュールブランドではありません。
ローラン・フェリエCEOのヴァネッサ氏によれば、彼らは自分たちが他よりも優れている部分によりフォーカスしているのだそうです。
その優れた部分というのが、独自設計されたムーブメントそして本記事でフォーカスした仕上げなのです。
上に掲載している写真は、ローラン・フェリエ ガレ マイクロローターです。柔らかな印象を与えるケースが特徴的です。
丁寧にポリッシュされているため写真撮影が難しい時計でした。
ベゼルや右下のラグを見ていただければ鏡面に撮影者が映り込んでいるのが分かるかと思います。
もちろん自社完全生産ができているブランドは素晴らしいと思いますが、ローラン・フェリエの時計を通して全てのブランドがそうである必要はないのだと感じました。
まとめ
いかがだったでしょうか。
見た感じはシンプルな工程で何だ簡単にできそうじゃないかと思われるかもしれません。私も最初はこれなら自分もできそうだと思いました。
ですが、実際にやってみるとそう簡単なものではありませんでした。
今回ローラン・フェリエ マスタークラスに参加したことで、同社のこだわり抜いた仕上げの姿勢や、その他多くの高級時計が職人達の地道な努力によって生み出されていることを身をもって知ることとなりました。
これまで時計を裏返してトランスパレントバックから除くムーブメントを見て綺麗だな美しいなと思っていたのですが、その感じ方の重みが増したように感じた体験となりました。
これからはこれまでと時計を見る目が変わりそうです。